「eBay 古物商 いらない」「せどり 古物商なし」——実際に検索されている言葉です。気持ちは分かります。手間もお金もかかるので、要らないなら取りたくない。
先に結論を書きます。メルカリやヤフオクで中古品を仕入れて売るなら、古物商許可は必要です。
そして、この記事の本題はその先です。多くの解説が「取らないと罰則がある」で止まりますが、eBay輸出をやる人にとっての本当の争点は、罰則ではなく「仕入れの消費税を引けるかどうか」です。ここに古物商許可が直接効いてきます。金額の話です。
古物商許可が必要になるライン
判断の軸は3つです。
- 中古品(古物)を扱っているか
- 営利目的か
- 反復・継続しているか
この3つが揃うと許可が必要です。
必要な例
- メルカリで仕入れて、eBayで売る
- ヤフオクで落札して、国内で転売する
- リサイクルショップで買って、フリマで売る
不要な例
- 自分が使うために買ったものを、いらなくなって売る
- 自分で作ったものを売る
- 新品をメーカー・卸から仕入れて売る
メルカリ・ヤフオク仕入れ×eBay輸出は、中古・営利・反復のすべてに当てはまります。「輸出だから国内法は関係ない」ということもありません。仕入れているのが日本国内だからです。
取らないとどうなるか
無許可で古物営業をした場合、3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象になります。
申請先は営業所を管轄する警察署(公安委員会)で、申請手数料は19,000円程度が目安です。
ただ、うちが「取れ」と言う理由は罰則よりも、次の話のほうです。
本題:フリマ仕入れの消費税は、控除できるのか
原則:インボイスがないと引けない
2023年10月に始まったインボイス制度では、仕入税額控除を受けるのに適格請求書(インボイス)の保存が原則として必要です。
ところがメルカリやヤフオクの個人出品者は、ほぼ全員が免税事業者です。インボイスを発行できません。
原則どおりなら、フリマ仕入れの消費税は引けないことになります。
これは輸出セラーには致命的です。 輸出売上は消費税が免税(0%)なので、預かった消費税がありません。だから引ける仕入税額が、そのまま還付額になります。引けなければ、還付もゼロです。
逃げ道は3つある
1つめ:経過措置(誰でも使えるが、減っていく)
免税事業者からの仕入れでも、一定割合までは控除が認められています。ただし段階的に減り、最後はゼロになります。
| 期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 2023年10月〜2026年9月 | 80% |
| 2026年10月〜2028年9月 | 70% |
| 2028年10月〜2030年9月 | 50% |
| 2030年10月〜2031年9月 | 30% |
| 2031年10月〜 | 0% |
注意:2026年10月からの割合は、令和8年度税制改正で見直されました。 当初は「2026年10月から一気に50%」の予定でしたが、70%→50%→30%と段階を踏む形に変わり、代わりにゼロになる時期が後ろにずれました。2026年8月時点でまだ「10月から50%」と書いている解説が多いので、注意してください。
2つめ:少額特例(税込1万円未満・期限あり)
税込1万円未満の課税仕入れは、インボイスがなくても帳簿の保存だけで100%控除できます。
- 対象:本則課税で、基準期間の課税売上高1億円以下(または特定期間の課税売上高5千万円以下)の事業者
- 期限:2029年9月30日まで
フリマ仕入れの多くはここに収まるので、今のところ小規模なセラーはこれで守られています。ただし期限つきです。
3つめ:古物商特例(★本命)
そしてこれが本題です。古物商許可を持っている人には、専用の特例があります。
古物営業法の許可を受けた古物商が、適格請求書発行事業者でない者から、棚卸資産として古物を買い取る場合、一定事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められます(消費税法施行令49条)。
ポイントは3つです。
- 控除は100%。経過措置のような目減りがありません
- 金額の上限がありません。1万円以上でも使えます
- 期限がありません。少額特例や経過措置と違い、終わりません
「棚卸資産として」という条件があるので、転売目的で仕入れたものに限ります。自分で使う備品や消耗品は対象外です。eBay輸出の仕入れは、まさに棚卸資産です。
なお「特例」という言葉が紛らわしいので補足します。これは簡易課税の「みなし仕入率」とは別物です。
簡易課税は、実際の仕入れがいくらでも業種ごとの決まった率で概算する仕組みです。一方の古物商特例は、インボイスの保存義務が外れるだけで、控除できる額は実際に払った消費税の全額(10割)です。概算に置き換えられるのではなく、通常どおり満額引ける、という理解で合っています。
並べると、差がはっきりします
| 1万円未満の仕入れ | 1万円以上の仕入れ | 2029年10月以降 | |
|---|---|---|---|
| 古物商あり | 100% | 100% | 100% |
| 古物商なし | 100%(少額特例) | 70%(以後、段階的に減少) | 経過措置のみ → 最終的に0% |
2029年10月に少額特例が終わったあと、フリマ仕入れの消費税を100%引き続けられるのは、古物商許可を持っている人だけになります。
いくら違うか — これは「還付される消費税が減る」という話
先に前提を確認します。eBay輸出は売上が全部輸出=消費税は免税(0%)です。預かっている消費税がないので、仕入れで払った消費税は相殺されず、引けた額がそのまま還付されます。
つまりここから出す差額は、机上の控除額の話ではありません。還付されずに消える現金です。
1取引で、いくら違うか
税込価格に含まれる消費税は「税込価格 × 10 ÷ 110」で出ます。
ケース1:税込11,000円の仕入れ(1万円以上)
含まれる消費税は1,000円です。
| 控除できる額 | |
|---|---|
| 古物商あり | 1,000円 還付 |
| 古物商なし(2026年10月〜の70%) | 700円 還付 |
| 差(消える還付) | 300円 |
ケース2:税込5,500円の仕入れ(1万円未満)
含まれる消費税は500円です。
| 今(2029年9月まで) | 2029年10月以降 | |
|---|---|---|
| 古物商あり | 500円 | 500円 |
| 古物商なし | 500円(少額特例) | 250円(当時の経過措置50%) |
| 差(消える還付) | 0円 | 250円 |
つまり今は、1万円未満の仕入れなら差が出ません。少額特例が効いているからです。差が出るのは1万円以上の仕入れと、少額特例が終わったあと。ここを混同した「古物商を取れば消費税がこんなに得」という試算をよく見かけますが、正確ではありません。
年間で、いくら違うか
前提を置きます。年間の仕入れが税込500万円、うち1万円以上が3割(150万円)、1万円未満が7割(350万円)。 フリマ仕入れとしては普通の配分だと思います。
① 今(2026年10月時点)
| 区分 | 仕入れ額 | 古物商あり | 古物商なし | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 1万円以上 | 150万円 | 136,364円 | 95,455円(70%) | 40,909円 |
| 1万円未満 | 350万円 | 318,182円 | 318,182円(少額特例) | 0円 |
| 合計 | 500万円 | 454,545円 | 413,636円 | 約41,000円 |
年に4万円ぶん、還付が減るということです。今はまだこの程度で済んでいます。
② 2029年10月以降(少額特例が終わったあと)
少額特例の期限は2029年9月30日です。ここが切れると、1万円未満も経過措置の割合でしか引けなくなります。
| 古物商あり | 古物商なし | 差 | |
|---|---|---|---|
| 仕入れ500万円ぶん | 454,545円 | 227,273円(当時50%) | 約227,000円 |
年に約23万円、還付が消えます。
③ 2031年10月以降(経過措置がゼロになる)
| 古物商あり | 古物商なし | 差 | |
|---|---|---|---|
| 仕入れ500万円ぶん | 454,545円 | 0円 | 約455,000円 |
仕入れで払った消費税が、1円も戻らなくなります。
古物商許可の申請手数料は19,000円程度です。今の時点でも初年度で回収でき、時間が経つほど還付の差は開いていきます。
仕入れ額が増えれば差もそのまま比例します。年1,000万円仕入れる規模なら、③の時点で年間約91万円の還付が消える計算です。
※ 引いた額がそのまま現金で戻るのは、売上が全部輸出(免税)の場合です。国内販売もあるなら、その売上で預かった消費税と相殺されてから差額が精算されます。
だから最初に書いた「税制メリットはない」という説明は、正確ではありません。古物商許可は、消費税法に明記された特例の入場券です。
ただし、帳簿に壁があります
正直な話をします。古物商特例は無条件ではありません。帳簿に次の6項目が要ります。
- 相手方の氏名・名称
- 相手方の住所・所在地
- 取引年月日
- 取引した古物の品名
- 支払対価の額
- 古物商特例の対象である旨(例:「古物商特例適用」)
問題は2番です。フリマでは相手方の住所が取れません。 出品者名しか分からないからです。
救いはあります。古物営業法上の帳簿記載義務がない取引については、消費税法の帳簿でも氏名・住所の記載は不要とされています。古物営業法では対価の総額が1万円未満なら記帳義務がないので、そこは通せます。
ただし、書籍・CD/DVD等の光ディスク・ゲームソフト・自動二輪車と原付の部品は、1万円未満でも記帳義務が残ります(2025年10月からは電線・エアコン室外機なども追加)。ここは金額に関係なく住所が要ることになります。
レトロゲームや古本を扱っているなら、仕入れの大半がこの例外側です。うちの8月の仕入れを数えたら、43件中32件がゲームソフトでした。他人事ではありません。
ここで多くの解説が「実質不可能」と書いて終わる
さらに厄介なのが、帳簿とは別に非対面取引の本人確認義務(古物営業法15条)があることです。認められている確認方法は施行規則に列挙されていて、印鑑登録証明書、本人限定受取郵便、住民票+簡易書留、本人名義口座への振込など。どれもフリマの取引フローでは実行できません。
IDとパスワードを使う方法もありますが、これは古物商自身が初回に正規の方法で確認したうえで発行したIDの話で、メルカリの会員IDのことではありません。
実際、2021年に警視庁が「フリマアプリ利用者は非対面の確認方法の履行が困難」という趣旨の見解を示し、業界紙が「実質違法」と報じて騒ぎになりました。行政書士事務所の解説の多くは、この厳格な読み方で「メルカリは仕入れ先ではなく販売先に使うべき」と結論づけています。
でも、そこで止まると実務が動かない
続報として出た古物商70人へのアンケートに、この問題の本質を突く証言がありました。
東京の警察署に相談したあと——「警察署によって同様の質問をした時に見解が違うといったことは日常茶飯事」
つまり全国統一の基準が存在しません。 そして業界側の言い分も筋が通っています。プラットフォームが既に本人確認をしているのに、古物商が重ねて確認するのは二重で無意味。だから実態に合わせた法改正を求める、という声が大多数でした。
法の趣旨は「盗品が持ち込まれたとき、警察が誰から買ったかを追跡できること」です。取引IDとアカウント名が残っていれば、警察はプラットフォームに照会して本人にたどり着けます。 趣旨からすれば、これで目的は果たせているとも言えます。
うちの結論:自分の管轄署に聞いて、その記録を残す
うちは管轄の警察署に確認しました。回答は「取引IDとアカウント名で相手方を特定できればよい」でした。
これはうちの管轄署の見解であって、全国どこでも通る保証はありません。だからこそ、この記事を読んで真似するのではなく、自分の管轄署に聞いてください。 生活安全課です。税理士でも行政書士でもなく、警察の話です。
そして聞いたら、いつ・どの署の・誰に・何を聞いて・どう答えられたかを記録に残してください。 見解が割れる領域では、これがあなたの立場を守る唯一の材料になります。
うちの古物台帳は、この形に合わせてあります(古物台帳の書き方)。
- 取引IDと相手方アカウント名(+ユーザーID)を独立した列で出す
- 商品ページURLと取引画面の証憑スクリーンショットも残す
- 住所・職業・年齢は「取得不能(フリマ取引)」と明記する。書けないものを書けたように見せかけない
- 台帳の末尾に管轄警察署への確認記録(確認日・担当・回答内容)を書き込む欄を置く
最後の欄が一番大事だと思っています。帳簿そのものより、「確認した」という事実のほうが後で効きます。
輸出セラーが踏んではいけない選択
還付を受けられるのは、課税事業者で、かつ本則課税の場合だけです。次を選ぶと還付は消えます。
- 免税事業者のまま → 還付なし。「消費税課税事業者選択届出書」を出して課税事業者になる必要があります(選ぶと原則2年は戻せません)
- 簡易課税 → 還付なし
- 2割特例 → 還付なし
3つめは特に注意が要ります。2割特例は納税額を売上の消費税額の2割で計算する仕組みなので、仕入れを積み上げて還付する計算になりません。輸出中心だと売上の消費税は0なので、「納税ゼロ」に見えて、本来受け取れたはずの還付を丸ごと捨てている状態になります。
正解ルートはこうです。
課税事業者(本則課税)+インボイス登録+古物商許可+帳簿
そしてもう一つ。輸出免税は自動では適用されません。 その取引が輸出であることの証明書類を保存することが要件で、保存期間は確定申告期限から7年です。
古物台帳という「セットでついてくる義務」
許可を取ると、取引の記録義務がついてきます。そして上で見たとおり、この帳簿がそのまま消費税の控除要件にもなります。防犯のための義務であると同時に、お金を守る書類です。
- 記載事項は、取引年月日/品目と数量/特徴/相手方の住所・氏名・職業・年齢/確認方法
- 保存期間は最終記載日から3年(消費税側は7年なので、長いほうに合わせるのが安全です)
- 1万円未満は原則不要だが、書籍・CD/DVD・ゲームソフト・バイク部品は金額に関係なく記帳義務あり
うちは年900件を超えた時点で手作業をやめ、台帳と証憑を自動で作る拡張を自分で書きました。詳細は古物台帳の書き方にあります。
開業届はいつ出すか
「売れてから」で構いません。ただし、課税事業者の選択と青色申告の申請には期限があります。特に消費税の還付を狙うなら、届出のタイミングを外すとその年は取り返せません。
青色申告のほうは、複式簿記と電子申告などの要件を満たすことで最大65万円の特別控除が使え、赤字を翌年以降に繰り越せます。こちらは古物商許可が直接の条件ではありませんが、実務ではセットで動きます。この2つ(消費税の課税方式・青色申告)が同時に絡むと自分での判断が急に難しくなる話は確定申告は自分でやるか税理士に頼むかにまとめました。
まとめ
- メルカリ・ヤフオク仕入れ×eBay輸出は、古物商許可が必要な側。「いらない」ではない
- 無許可は3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
- 本当の争点は罰則ではなく仕入税額控除。 古物商には消費税法上の「古物商特例」があり、インボイスがなくても帳簿だけで100%・上限なし・期限なしで控除できる
- 経過措置は2026年10月から70%(当初予定の50%から見直し)、以後50%→30%→0%と減っていく。少額特例も2029年9月末まで
- 2029年10月以降、フリマ仕入れの消費税を100%引き続けられるのは古物商だけ
- ただし帳簿には相手方の住所が要る。フリマでは取得できず、非対面の本人確認の扱いは全国統一の基準がない (警察署ごとに見解が割れるのが実情)。自分の管轄署に聞いて、その回答を記録に残すのが唯一の実務解
- 還付には本則課税が必須。免税事業者・簡易課税・2割特例では還付されない
面倒に見えますが、この面倒さは他人にとっても面倒です。メリット・デメリットの記事にも書いたとおり、参入障壁は利益率です。先に固めた人が、長く残ります。
※ 本記事は実務の整理であり、最終的な判断は管轄の警察署(公安委員会)・行政書士・税理士等にご確認ください。制度は改正されます。この記事は2026年8月時点の内容です。
