先日、たまたま見かけたeBayの1商品から始まった話です。
「PAIR Acne Face Cream by LION」。日本のドラッグストアなら300円台で買える、ニキビ用の塗り薬です。何気なく検索したら、38件の出品のうち29件(76%)が、日本ではなく米国内から発送されていました。しかも評価が数件〜数十件しかない、明らかに立ち上げたばかりのアカウントが大半です。
気になって、他の日本の薬でも同じことが起きているか確認しました。8ブランド分掘って分かったのは、状況はブランドごとにまったく違う、ということです。
実測データ
| ブランド | 日本での区分 | eBayでの実態 |
|---|---|---|
| PAIR(LION) | 第2類医薬品 | 76%が米国内発送。評価一桁〜数十の小規模セラーが多数 |
| ロキソニンS | 指定第2類医薬品 | ほぼ見当たらない。日本発送1件のみ |
| サロンパス | 第2類医薬品(日本側) | 283件中9割が米国内発送。評価38万件超のセラーも普通にいる |
| 正露丸(喇叭印) | 医薬品 | 17件中大半が「Dietary Supplement」表記 |
| 龍角散 | ダイレクトは指定第2類医薬品/のど飴は食品 | 9割が日本発送。多くが「のど飴」として出品 |
| アリナミンEX | 指定第2類医薬品 | 8件全て日本発送。「Vitamin Supplement」表記 |
| パブロンゴールドA | 指定第2類医薬品 | 1件のみ。米国発送で正直に「Medicine」と表記 |
PAIRの商品説明を開くと、Amazonの商品ページからそのままコピーしたとおぼしきフォント指定が残っていました。評価53のセラーと評価737のセラー、面識のなさそうな2人が、商品仕様欄にまったく同じ誤字(「Check the Imgae」)を使っていたのも見つけました。同じ自動出品ツールか、同じ仕入れ元のデータを使っている証拠です。参入障壁は、もうほとんど無いということです。
なぜこれが問題なのか
eBay自体のルールは、実はそこまで厳しくありません。一般用医薬品(OTC)は、濃度を明記して、期限内で、未開封の元パッケージであれば出品できます。PAIRのようなクリームも、この条件を満たせばeBayのポリシー上は通ります。
問題は、その先にあります。米国のFDAは、海外の医薬品を個人輸入として認める条件のひとつに「米国居住者への商業化がないこと」を挙げています。転売した時点で、この条件から外れます。FDA未承認の外国製医薬品を商業目的で流通させることは、国内製造品と同じ基準(登録・事前承認)を満たさない限り、連邦法違反です。
つまり、eBayのルールを守っていても、その上位にある米国法には違反している、という状態が起こり得ます。プラットフォームのポリシーと、国の法律は、別のレイヤーです。
同じ「日本の薬」でも、扱いが全然違う
ここが面白いところで、見た目は同じ「日本の医薬品をeBayで転売」でも、中身は3パターンに分かれます。
パターン1: 米国内転売型(PAIR) 誰かが米国内で仕入れて、米国内で転売する。日本とは無関係に、米国内だけで完結する違反です。
パターン2: 日本発送・ラベル変更型(アリナミンEX) これが一番示唆的でした。日本のセラーが、実物は正規のアリナミンEX(指定第2類医薬品)のまま、出品タイトルだけ「Nutritional Supplement」「Vitamin Supplement」に変えて、日本から直接発送しています。中身は変えず、表示だけ健康食品に寄せている。8件全てがこの型でした。正露丸の「Dietary Supplement」表記も、同じ動きに見えます(こちらは輸出専用に処方を変えた別商品の可能性も否定できず、断定はできません)。
パターン3: 実は合法型(サロンパス) サロンパスは日本でも医薬品ですが、米国のHisamitsu Americaが2008年に独自にFDAへ承認申請(NDA)を通しています。つまり米国向けの正規品が別に存在する。だから283件のうち9割が米国発送で、評価38万件のような大手が堂々と扱っている。これは違法な転売ではなく、ただの小売の価格競争です。
同じ「日本の薬」というラベルの下に、危険な違反と、合法な競争が両方混ざっています。
それでも踏み込む人がいる理由
ここまでは事実です。ここからは、私の考えです。
アカウントヘルスを守る立場から言えば、この手の商材は推奨しません。医薬品カテゴリはeBayも米国当局も監視の目が強く、アカウント停止や資金保留のリスクが他のジャンルより高い。うちが古着やカメラを扱っているのは、この手のリスクを避けているという側面もあります。
ただ、正直に言うと、「規制が固まる前に、需要のある場所へ踏み込む」という判断そのものを、商売として否定しきれない自分もいます。エイベックスの松浦勝人氏が、創業初期に輸入盤やインディーズの流通で、当時のルールが未整備な領域を通ってきた、という話はよく語られます。細部まで検証できる話ではありませんが、市場が先にできて、ルールが後から追いつく、という順番自体は、今回調べたPAIRやアリナミンEXの動きとも重なります。米国にこの薬を欲しがる需要があって、正規の供給ルートがまだ無いから、こういう出品が生まれる。需要と供給のギャップは、埋めた人が儲かる。それは、いつの時代も同じです。
だからこの記事は「絶対にやめろ」という話ではありません。ルールを知らずに踏むのと、知った上で自分のリスク許容度で判断するのは、まったく別のことです。少なくとも、自分のアカウントで何を扱っているか、その成分が日本でどう分類されているかくらいは、確認してから決めてほしいと思います。
